変形性膝関節症
変形性膝関節症は、変形性関節症の中でもっとも多く、「年をとって膝が痛い」という場合のほとんどがこの病気です。女性に起こることが多く、ほとんどがO脚変形を伴い、内側の関節面の軟骨が擦り減るように進んでいきます。
症状は、長く歩くと痛む、正座ができなくなる、立ち座り・しゃがみ込み・階段昇降がつらいといった症状から始まり、立ったり、歩いたりが徐々に困難になってきます。一方で、安静時痛は少ないのが普通です。
進行してくるとO脚変形が強くなり、膝は慢性的に腫脹して大きく見え、さらに曲げ伸ばしがしにくく(可動域制限)なってきます。診断は、症状とレントゲン所見が中心です。
レントゲンでは、関節のすき間(軟骨の厚み)が減っている、余計な骨の出っ張り(骨棘;こつきょく)が出ている、関節周囲の骨が白く硬い感じに見える、といった所見があります。
膝の痛みを生じる他の病気は、まず関節リウマチが挙げられますが、血液検査やレントゲンの見え方で、比較的容易に区別できます。治療は、内服薬、外用薬、注射、理学療法、手術などです。順番に説明しましょう。内服薬は、痛み止めが主になります。
ロキソニンなどの消炎鎮痛剤は多めの量を常用すると胃炎や腎障害などが心配になりますので、朝だけ服用する、痛みが強いときだけ、あるいは、外出の予定がある時だけ服用するといった服用方法が良いと思います。
ただ、安静時も痛い、痛みで眠れない、といった場合は、短い日数で1日2回、3回と時間通りに飲む場合もあります。他の種類の痛み止めもありますので、状態を見ながら処方します。
外用薬は、経皮吸収性の消炎鎮痛剤のはいった湿布、塗り薬を使います。冷湿布がいいか、温湿布がいいかはよく聞かれることですが、今の外用薬は消炎鎮痛成分の効果を期待しているので、あまり関係ありません。
ただ、温湿布は皮膚への刺激が強いので湿布かぶれが多い傾向があります。
注射は、主にヒアルロン酸という関節液や軟骨の成分を含んだ注射剤を良く使います。潤滑剤としての働きや炎症を抑える効果もあります。また、ステロイド剤を使うこともあります。炎症や痛みを抑えるのに高い効果がありますが、短い間隔で使いすぎると逆に軟骨や靱帯を弱くすることがあり、2ヶ月以上間隔をあけるようにします。
運動療法の基本は、下肢の筋力を鍛えることと、膝関節の可動域、周囲の筋肉の柔軟性を保つことです。特に太ももの筋肉、つまり大腿四頭筋を鍛えることは重要です。仰向けに寝て、片方の膝を立て、もう一方は伸ばして、伸ばしたほうの脚を踵が10センチくらい浮くように持ち上げます。こうして5秒間維持することを10回から30回やります。こうすると膝に負担をかけずに、大腿四頭筋をきたえることができます。他にもスクワットや膝伸ばし運動なども良いことです。
人工膝関節手術について
変形性膝関節症や関節リウマチなどの病気によって、膝の痛みや変形、可動域制限が非常に強くなることがあります。こうした症状を和らげるために行われる手術が、人工膝関節全置換術です。
ある程度進行した関節の変形や骨の破壊は、手術をしないと進んでしまう確率が高く、将来的に歩行が困難になることがあります。 また、あまり放置すると筋力がすっかり弱ってしまい、手術して関節が良くなってもなかなか歩けるようにならないといったこともあり、適切な時期に手術をする方が得策であるといえます。また、長期にわたって鎮痛剤を用いることは、体にとってもよくありません。
この手術では、まず、膝の皮膚を約15㎝切開し、膝蓋骨(お皿の骨)の内側から関節を開きます。 続いて大腿骨、脛骨の表面を、5ミリから1センチ程度切除して、チタンでできたインプラントをはめ込み、固定します。脛骨の表面に固定したインプラントには合成樹脂のプレートを設置します。
手術後には、2~4週のリハビリテーションを行います。手術の2日後には車椅子、3~5日後からは訓練室で平行棒内での立位・歩行練習を始めます。 ただし、痛みの強い方などは、少しゆっくりと進むことになります。 平均して2週間程度で杖歩行が可能となります。その後、階段昇降ができたら退院です。
20年くらい前までは、合成樹脂がすり減ったり、人工関節と骨の間がゆるんできたりして10年以内に入れ替えの再手術をすることもありましたが、今はすっかり素材が良くなり、経年劣化で入れ替えということがほぼなくなりました。
人工膝関節手術は、とても効果の高い手術ですが、大きな手術ですし、変形性膝関節症そのものは、命にかかわるような病気ではありませんので、人工膝関節の手術を受けるかどうかは、医師とよく相談して決めてください。
人工膝関節全置換術のレントゲン
手術前のレントゲン


手術後のレントゲン


変形性股関節症
変形性股関節症は、股関節の軟骨がすり減ってきて、関節の痛みや可動域制限が続き、関節変形が進行していく病気です。多くの場合、先天性股関節脱臼(赤ちゃんの時の股関節脱臼)や臼蓋形成不全症が原因です。臼蓋形成不全症は、股関節の骨盤側の受け手である臼蓋が浅い状態で、関節の一部分に荷重がかかりやすいため軟骨が磨耗しやすく関節症へ進みやすくなります。
症状は、主に立位、歩行時の股関節痛と、股関節の可動域制限です。安静時痛は強くありません。可動域制限は、脚がまっすぐ伸びなくなって、広がりにくくなります。また軟骨とともに骨も擦り減ってくると、脚の長さが短くなり歩きにくくなってきます。治療は、変形性膝関節症とほぼ同様で、理学療法、消炎鎮痛剤などの内服薬および外用薬、手術です。減量はやはり重要で、減量により痛みを軽減し、進行を遅らせることができます。
軟骨の摩耗や骨の変形が強い場合は、人工股関節手術を行います。人工膝関節と同じく、症状を和らげる効果が高く、長期成績が良い手術です。
人工股関節全置換術について
変形性股関節症や関節リウマチなどの病気によって、股関節の痛みが非常に強くなることがあります。こうした痛みを和らげるため股関節を人工のものに置き換える手術が、人工股関節全置換術です。
股関節の軟骨の磨耗や骨の変形が強く、保存療法をしても強い疼痛や可動域制限が続く場合に、この手術を行います。この手術では、まず、皮膚を8~10㎝切開し、筋肉を分けて関節を開いて、大腿骨の骨頭を取り出します。続いて、骨盤側の関節面を半球形に削って、チタンと合成樹脂のカップを設置します。大腿骨側には、骨内に軸を入れて先端にセラミックでできた球形の骨頭を入れます。手術後には、2~3週のリハビリテーションを行います。手術の翌日にはベッド上での筋力訓練、2日後には車椅子、3日以降は平行棒内での立位、歩行訓練、2週くらいで歩行や階段昇降ができたら退院です。
骨の強さや人工関節の安定性により、リハビリテーションの進み方は違ってきます。ポリエチレンがすり減ったり、徐々に人工関節と骨の間がゆるんでくることがあります。 20年くらい前までは、合成樹脂がすり減ったり、人工関節と骨の間がゆるんできたりして10年以内に入れ替えの再手術をすることもありましたが、今はすっかり素材が良くなり、経年劣化で入れ替えということがほぼなくなりました。人工股関節手術は、とても効果の高い手術ですが、手術を受けるかどうかは、担当の先生とよく相談して決めてください。
人工膝関節全置換術のレントゲン
変形性股関節症(右)

人工股関節手術後
